ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)

田中路子は日本画家田中頼性璋の長女として東京で生まれ、陽気でおしゃまな子として、両親の愛を一身に受けて育つ。東京音楽学校の声楽科に入る。あまりよくしゃべるので“ペチョコ”と綽名され、恋多き華やかな生活を送るが、ドイツ留学帰りのチェリストと不倫問題を起こしたため、両親は娘を守るためウィーンへ海外留学させる。ジョリィ男爵夫人に預けられ、ウィーンの舞踏会、社交界にデビューする。恋多き女はそのなかでウィーン文化にひたり、その雰囲気を楽しむ。その中で大富豪コーヒー王ユリウス・マイルンに惚れられる。学校からは「田中路子は学生にふさわしからぬ行動をとるので大きな過ちの起こらぬうち本国送還する」と脅され、それはたまらぬとマイルンとの結婚を承諾する。マイルンの大きな心の中でミチコは声楽家として成長し、「蝶々婦人」で名をあげる。 “ザルツブルク大聖堂音楽協会及びモーツァルト音楽院（モーツァルテウム）“の碑に日本人として始めて刻まれる。第二次世界大戦のナチス・ドイツの支配伸張の中でユダヤ人のために力を尽くしたりするが、性なき結婚に耐え切れないミチコは作家ツックマイヤーと恋したり、愛人俳優早川雪洲にはマイルンの大切な遺産を剥ぎ取られたりする。最後には歌手デ・コーヴァと幸せな結婚生活に入る。その生活のなかでドイツに留学した日本人に惜しみない支援をし、民間大使として感謝される。こんなにスケールの大きい日本女性は不世出をいってもいいだろう。友人としても親しかった著者からは、ミチコ本人の肉声がよく伝わってくる。