韓国の経済 (1976年) (岩波新書)

絶版ですか。相当売れた本だと記憶していますが。大学生のときはけっこうみんな読んでいたような記憶があります。いま手元で見てみても赤ボールペンがあちこちに引かれており、こんな本を真剣に読んだときもあったのかという恥ずかしさでいっぱいの気持ちにさせてくれます。この本は大変なトンデモ本です。現実と事実を創造的に解釈するのではなく、ある鋳型にどのように事実を取捨選択してあわせていくかという見本のような本です。一言で言うと当時日本でも流行していた従属理論の枠組みに、当時急成長しつつあった韓国の経済を題材として当てはめてみましたという安直な作品です。この中では韓国経済の特異な問題点が日本や米国の資本主義への従属という形から取り上げられています。１０年もしないうちに、現実がこの枠組みを超えてしまい、ある一時期からは、もっぱら先見性のない作品の見本として取り上げられたものです。こんな作品でも、作品自体は、不思議なもので、著者の手を離れて固有の生命を持ち始めます。というのは、８０年代後半から、本家の韓国でこの理論がよみがえるわけです。今の政権にもけっこうこの作品とは変わらない思想を持った人がいるのかもしれません。